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江分利満氏の優雅な生活 [身辺雑記]

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直木賞をとった山口瞳の同名の小説をベースに岡本喜八がつくった映画をCSでやっていたので観た。1963年の東宝作品。傑作であった。

まずもって、小林桂樹がよい。

1960年代のオレらの世代にすると、ひょうひょうとした味わいのオッサンないしは爺さんという印象の強かった小林桂樹だが、作中ではまだ30歳なかば(実年齢では40ぐらいだったようだが)。酒が入ればなんとも厄介で話のクドイおやじなんだが、しかし、例えば「青春時代を台無しにしてくれた戦争のバカヤロウ」みたいな鬱屈を実は内面に抱えていたりして、単なる脳天気なオヤジというわけでもない。どうということのない平凡な人間にだって、いろいろ悩みはあるんだよ頑張ってんだよコノヤローみたいな風情を実にうまく演じている。もちろんこの辺は、さすが「肉弾」あたりで独特の反戦論を訴えた岡本喜八の作品、という褒め方もできるわけだが。

で、共演陣もなかなかにヨロシイ。妻役の新珠三千代なんていうのは、やはりオレらの世代からみると、美人ではあるんだがちょっとお高くとまった、冷たいオバサンみたいなイメージがあったわけだが、本作ではなかなか庶民的な可愛らしい奥様である。主人公の父親役の東野英治郎 は、元実業家ながら零落してしまった、放蕩癖の抜けない困ったジジイなんであるが、そのあたりの小憎らしいところを好演している(しかしはたから見れば結構憎めないいキャラにみせるあたりがウマイ! こういうイヤらしいジジイを得意にしていた彼が、のちに水戸黄門を当たり役にするとは当時誰も思わなかったろう、などと考えてみるのも、半世紀前の映画をみる楽しみである)。で、二瓶正也とか桜井浩子といったウルトラマンファミリーも脇役で出ていて、ニヤリとしたりね。

しかし、とここで思うのだが、山口瞳といえば、その家族に秘められた暗い歴史を「血族」で剔抉した人物であり、ついでにいうなら、本作にも息子として登場する山口正介氏などはこのたび「江分利満家の崩壊」とかいう本を出して、山口家は実はしっちゃかめっちゃかの大変な家族であったことを明かしている(らしい。っつーか、オレ、実は「血族」も「江分利満家の崩壊」も全然読んでませんからw)。

となりますと、この作中のホンワカした家庭の描写だって、じつは小綺麗にまとめたウソっぽいお話だったのかもしれないわけで、うむ、なかなか人生ってーのは格好良く終われねーなという別種の感慨を味わうことも可能であるようだ。いやー、映画というのは、あらまほしき自画像に酔うための「自惚れ鏡」であると喝破した評論家もいましたが、なるほどその通りなのである。いやー映画って本当にいいものですね(笑)。


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