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「エリア51」を読む [読書感想文]


エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実 (ヒストリカル・スタディーズ)

エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実 (ヒストリカル・スタディーズ)

  • 作者: アニー・ジェイコブセン
  • 出版社/メーカー: 太田出版
  • 発売日: 2012/04/05
  • メディア: 単行本



米国でも話題になったという触れ込みのノンフィクション、アニー・ジェイコブセン著「エリア51」(太田出版)をようやく読了。ネヴァダ州の軍管理地域・エリア51というのは米軍の秘密兵器開発基地であるとか、宇宙人が匿われている基地であるとか、まぁいろんな憶測の飛びかう謎めいた場所であるわけだが、気鋭のライターがその歴史と内実を綿密な取材で解き明かした書物、とでもいえば良かろうか。

で、以下はこの本の感想文ということになるわけで、当然ネタバレ的なことも平気で書いてあるので、そのあたりが気になる方は読まないように。念のため折りたたんでおくけれど。




さて、一読したところ、なるほど説得力のある議論が展開されている。簡単に言ってしまうと、エリア51ならびにその隣接地域というのは、U2とかA12とかいった超高高度偵察機の開発拠点としてCIAと米空軍が一枚噛んだ秘密基地であり、同時に核兵器の影響やら原子力エンジンの開発といった核絡みの研究拠点でもあったという話で、そのあたりをさまざまな人々へのインタビューを通して浮き彫りにしている本なのである。

なるほど、冷戦期の米ソ関係というものを考えれば、秘密裏にこうした兵器開発を進めねばならないというニーズは確かにあったのだろうし、時に大統領をも蚊帳の外において軍産複合体が暴走していく、というようなことがあってじっさい不思議ではないのである。本書でも触れられているが、米国ではプルトニウムの人体への影響を調べるべく障害者などを実験台にしての投与実験さえ行われていたらしい。確かに昔、そんな本読んだ記憶がかすかにある。

余談ながら、フクイチの原発事故にあたっても無人航空機を飛ばしていちはやく汚染状況を確認するなど実にクールに事態の把握に務めた米軍のふるまいの背景には、ある意味、あくどいことも敢えて辞さず、真剣に核戦争後の世界についてのシミュレーションを重ねてきた国ならではの蓄積があったのだなぁと改めて思ったりもする。

閑話休題。そういうワケで、戦後米ソ冷戦期が生み出した兵器開発競争という歴史の暗部を抉り出したという点で、本書は十分に賞賛を浴びるべき好著だと思うわけであるが、さてしかし。ここでひとつ問題になるのが、本書で示されている例のロズウェル事件についての新解釈である。

ひと言でいってしまうと、じっさいにロズウェルには人工の飛行物体が墜落したのであるが、その正体は「ロシアが飛ばした新型飛行機」であった、というのである。

どういうことかというと、ナチスドイツ下で、見ようによっては円盤状にもみえる全翼機の開発にあたっていたホルテン兄弟というのがいるんだが、彼らの研究成果をパクッたソ連は、戦後まもなく、その「円盤状の飛行機」を作り上げた。そして1947年。すでに冷戦問題が顕在化しつつあった世界にあって、米国を揺さぶる戦略のひとつとしてこの新型機を米国内に侵入させ、その心肝を寒からしめようという作戦にでた。それこそがロズウェル事件の真相であり、ライト・パターソン空軍基地にとめおかれた残骸が運び込まれたのが他ならぬ「1951年」であったからこそ、この場所は「エリア51」なのだ――存命の関係者から、著者はそんな話を聞き出したというのである。

ただ、この本の主要部分、つまり偵察機や核開発やらの秘密をめぐる記述と比べると、この部分はいかにも根拠薄弱、荒唐無稽なのである。

この飛行機は自由自在に空中に静止したり加速したり、といった運動能力をもっており、さらにはレーダー網をかいくぐるステルス能力さえ持ち合わせていたという。はて、1947年にソ連がそんなテクノロジーをもちあわせていた可能性はあるのだろうか? だったらその後の朝鮮戦争だって、あるいは米ソ代理戦争としてのベトナム戦争だって、えらく戦況はかわったと思うのだが、そんな話はとんと聞かないし、リバース・エンジニアリングで機体を徹底的に調べた米国だって、類似の兵器は開発可能だったはずなのだ。

沖縄配備問題で注目されているヘリ、オスプレイだって「静止したり高速飛行したり」が売りらしいんだが、そんなテクノロジーが60年前にあったら今さらオスプレイもクソもないんではないか。なんで1947年の時点で傑出したテクノロジーが、その後の兵器開発とかに引き継がれぬまま消失してしまったのか? そのあたりの疑問に本書はまったくこたえていないのである。

それに、どうやってその飛行機は米国本土に侵入したのか? 本書ではこの飛行機を大型機に搭載し、米国にしのびよったところでその新型機を射出した、みたいなことが書いてあるのだが、当時それほどまでに長大な航続距離のある大型機がソ連にあったとも思えんし、空中での飛行機射出技術というのは、素人にはよくわからんが相当に高度なものではないのか。無理でしょう、それは。

加えてさらに荒唐無稽なのは、その飛行機には実際に小人のような搭乗員が乗っていたのだが、それは狭い機内での居住性ということを考えて、ということなのであろうが、身体障害児などを飛行士にしたてて乗せていたのだ、といった主張である。

なんかもうここまでくると、合理的思考を遥かに逸脱してしまって、それまでの冷静沈着な筆致はどこいっちまったの?というぐらいの暴走ぶりなのである。

こういう怪しげな説は載せないで出版したほうが良かったのではないか。あるいは、米国あたりでも「売らんかな」の商業主義というのはけっこう強力であろうから、編集者あたりが「え? そんな話あるの? なるほど、かなり無理筋だけど読者も食いつくだろうから、その話もかいちゃってYO!」みたいな一幕があったんではないか。

まぁ日本でも「センセーショナルだと売れるから」という理由で、ウソっぽい話をウソと知りつつ本に書いたりしてるUFO研究家のセンセイなどもいるようであるから、あんまりよその国のことは言えないのであるが、ともかく「画竜点睛を欠く」というか、いや逆に余計な点を打ってしまってザンネンという感じになってしまった、惜しい1冊であった。


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