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アンギャマン [Nice]

たまたまネットで教えてもらったマンガ『アンギャマン』というのをアマゾンで取り寄せて読んでみた。

アンギャマン リアル遠足伊勢巡礼編

アンギャマン リアル遠足伊勢巡礼編

  • 作者: 左剛蔵
  • 出版社/メーカー: エンターブレイン
  • 発売日: 2010/01/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


作者は左剛蔵なる人。家のある大阪から伊勢とか出雲まで寝袋かついで徒歩旅行して、道すがら撮った写真を背景に、そこに自分の姿とセリフを書き込んで、といった独特のマンガを描き、その旅行記をネットで公開する活動を続けている人物らしい。今回買ったのは副題に「リアル遠足伊勢巡礼編」とあるとおり、大阪からお伊勢さんまで6日間を費やして踏破したときのことを描いた作品。昨年出た本のようだ。 

何か事件が起こるわけではない。道すがら、見かけた寺社仏閣には有名無名を問わず必ず立ち寄って参拝していくという私的ルールを堅持しているらしく、そのつど神仏に「ありがとうございました」と頭を下げてから先を急ぐ作者の姿にはしぜんと好感を抱くようになったりするのだけれども、かといってそこから壮大なドラマが始まるわけでもない。

道に迷いそうになったり、店の人と話をしたり、野宿の場所をさがしてウロウロしたり。ただそれだけ。作者はベジタリアンということもあってか食うものは常に粗末で、炒った大豆や干しイモをかじりながら歩いていたりとか、あるいは極度の貧乏旅行ゆえのいろいろな苦労などというものもあるのだが、それとてストーリーを大きく展開させる契機になるわけではない。

ただし。ひとつ「仕掛け」がある。当然作者は一人旅をしているはずなんだが、作品世界の中には「相棒」が出てくる。なんか鬼太郎の目玉おやじみたいな、体に布をまとったちいちゃな生きもの?で、こいつが常に一緒。説明がないのでこれが何者なのかは全くわからん。作中の主人公は「黒目」のない独特の風貌をしているので、やっぱりこれは主人公の目玉が抜け出したものなのだろうか、とかいろいろ想像をたくましくするわけだが、とにかく目玉おやじはあとになり先になり、ついてくる。時にはピョンピョン跳ねたり、主人公の頭の上にちょこんと載っていたり。で、主人公はコイツといろんな話をしながらひたすら歩いていくのである。

このへんが琴線に触れるんだろうな、と思った。

確か斎藤孝の本で読んだンだが、宮沢賢治は散歩が好きで、歩きながらいろんなことを考えたり着想を得たりしていた、みたいな話もある。「歩く旅」というのは確かに人を内省的にさせるのだ。何で俺はこんなことして歩いてるんだろ。何食おうか。今晩はどこで寝ようか。たとえそんなことでも、自分の中には時々刻々いろんな思いがわき上がるんであって、そこに自分でツッコミを入れたり、相づちを打ったりしながら人間は生きていくのである。その内的な対話のプロセスが、この目玉おやじとのやりとりの中で実にリアルなものとして再現されているのである。名刹に参拝して、よかったなーとか感心してる主人公にたいして、「うむ」とか頷いてくれる目玉おやじ。読んでくと、けっこう好きになってくるゾ。

我田引水だが、俺も友達がいないので、なんか街をフラフラ歩きながら頭の中で自問自答みたいなことをしている時間がたまにある。でも、たとえひとりぼっちであっても、こころの中にはやっぱり「決してウソはいわないもう一人の自分」「どこまでも自分に付き添ってくれる誰かさん」みたいなものとの対話というものが発生しているのであって、たとえば宗教の世界ではその種の「You are not alone!」という声は「弥陀の本願」とか、お遍路さんにおける「同行二人」みたいな言い方(つまり、アンタはひとりぼっちだと思っているかもしれないけど、実は弘法大師サンが一緒に歩いていて下さるんだゼという話だな)で語られており、つまりそれはそれでとても大事なことなのである。これを強引に絵にしてみると「目玉おやじとの対話」ということになるのかもしれない。そのように思わせるところが、このマンガにはある。深い。

ちなみにこの作者、「スカラムーシュ」と題したサイトでは「四国遍路」の連載を続けている。ということは、そのご、お遍路を敢行したということなのだろう。さきほど「同行二人」ということを言ったばかりだが、なるほど、歩き旅のひとつの完成形といえばお遍路。この展開はある意味必然だ。そして、流石にいろいろな人との出会いというのはお伊勢参りの時以上にいろいろあるわけなんだが、それほどの事件が起こるわけではないのはここでも変わりない。しかし面白い。決してメジャーにはなりえない表現かもしれないけれども、俺はこの試みをとてもすばらしいものだと思っている。頑張れ。

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